香豆火珈琲 (Kaz - Feel - Coffee) - 引越し済


KAZUHICOFFEEは 2021/11/11に開業いたしました。 屋号はそのままKAZUHICOFFEEです。

新HP: https://kazuhicoffeelab.com/
旧HP: http://www.kazuhicoffee.com/
Base: https://kazuhicoffee.thebase.in/

今はまだ珈琲豆のネット販売と時折行う焙煎教室だけですが、これから珈琲の家庭焙煎や小型焙煎機のコンサルティング業という分野を開拓したいと考えております。まずは発明工房さんの「煎り上手」や安価な小型ドラム型焙煎機などにちょっとした装置をつけて、焙煎プロファイルがリアルタイムに見えるようにすることで、短期間で焙煎の技術を学んだり、既に焙煎を開始されている方の技術が上達するようなプログラムを用意したいと考えております。これからまだまだやること山積ですが、まずは出発致しましたことお知らせ致します。 珈琲が仄かに好きという皆様が、もっともっと本物の珈琲のことを知って楽しんで頂けるようにすることが次の自分のミッションだと考えております。家庭用サイズの小型焙煎機を海外から輸入して販売する等も計画しております。皆さまが美味しい珈琲をいつでも気軽に楽しめるようにすることを全身全霊でサポートしたい!!

2021年12月

おうち焙煎 with 科学的アプローチ

今年もついに大晦日。もう新年までカウントダウンできそうな時間である。さて、ここのところKAZUHICOFFEEではある実験を繰り返してきた。それはミニマムな焙煎道具、煎り上手に焙煎ロガーを取り付けてどこまで出来るか、というものである。
煎り上手たち

最初はただ熱電対デジタル温度計を仕込んでみた。これだけでも俄然面白い。一回70gの焙煎、というのを逆手にとって、豆を気にせず色々と冒険が出来るのが強みである。そもそもこの焙煎器具は20年間売れ続けているロングセラーだけあって実によく出来ていて、まぁ適当にやってもそれなりに失敗なく焼けるのである。
煎り上手+温度計実験

しかし、焙煎ロガーを付けるとどうなるか。リアルタイムで温上スピードであるRORが読み取れるだけでなく、このペースなら何分後にハゼかなど、細かく表示されるので、まさに思いどおりの焙煎が出来るのである。ちょっと気を付けてやれば、プロの焙煎師が本格的な焙煎機で焼いた珈琲豆となんらそん色のないレベルのものも作れる。再現性を追求することも出来る。
煎り上手室外実験中
煎り上手室内実験
<寒い日はログハウス内でも焙煎テスト>

来年はこれを使って、「お家で焙煎教室~科学的アプローチ」(仮題)というのをやってみたいと目論んでいる。一クラス分(40人程度)の焙煎道具を用意して生豆と共に配布し、マニュアルと課題を提供する。だんだんと難易度が増すと同時に高級な豆を使う形で、6~8回の課題をクリアすることで、初心者でもあっと言う間に素晴らしい焙煎が出来るようになる、というものである。コース終了後は手元に焙煎道具が残るだけでなく、美味しい珈琲豆も手に入る。これをクラウドファンディングで出来ないか、というのが今の計画である。さぁ、来年早々からまた忙しくなるぞ~

煎り上手Artisan付き2号機
本日、Artisan接続用の2号機を制作。温度チェックも合格  (^_^)

歴代煎り上手

これは先日、煎り上手の発売元である発明工房さんを訪問した際に撮らせて頂いた、開発途中の煎り上手。2002年の発売前の1年くらい集中的に様々な試作品を作ったとのこと。無骨なものや、銅製のものなど、なかなか興味深い。

追伸:
今年はここまでですが、最後にいつも僕の風変わりなブログを読んでくれている皆さまに感謝致します。たまにコメントを頂いたり、なかには北海道とか島根といった遠方からログハウスまで来てくれた方までいて、とても励みになっています。来年はさらに深く、しかしどなたにも分かりやすい内容をアップしていけるように頑張ります。 では皆さま、良いお年を!

  KAZUHICOFFEE 2021年大晦日 すっかり快適なオフィスになったログハウスにて
ログハウス冬仕立て


ペーパードリップ抽出についての考察

デイリーな珈琲の抽出方法としては、後片付けの簡便さから最終的に大半の人が、ペーパードリップに落ち着くだろう。但し、ペーパードリップといっても、ドリッパーの形状、ペーパーの種類、そして抽出法には様々な手法がある。しかし結局、抽出の目標は以下の2点に集約される。

①焙煎豆が含む成分をバランスよく取り出すこと
②安定して同じ味が再現できること

教科書的には大きく透過法(濾過法)と浸漬法に分けられるが、完全な浸漬法はあったとしても、完全な透過法というのは物理的に困難である。敢えて言えば点滴抽出がこれに相当するが、湯溜まりが一切できないように、最初から最後まで点滴だけで一杯分を抽出するためには大変な根気がいる。この場合、たいていは濃く少量を淹れてデミタスで飲むか、それにお湯を足して濃度調整するか、となる。ちなみに、後者の薄める方法は日本ハンドドリップ協会が推奨しており、全体の1/3量をドリップ抽出した後に、2/3はお湯で薄めなさい、と勧めている。この手法では特に深煎りでは明確にスッキリした味わいになるが、抽出率が下がるため同じ粉の量では薄く感じることが多い。

それはさておき、少なくともペーパードリップ=透過法というのは正しくなく、ペーパードリップを使えば、浸漬法と透過法の比率を色々変えれるよ、というのが事実だろう。
例えば極端に浸漬法に振ったのが、クレバーやHARIOのスイッチであり、方式的には全くの浸漬法であるが、フレンチプレスのような後片付けの面倒くささを解決している。

さて、今回の主題は抽出メソッドである。自分がやってきた以下の5つのメソッドについて自分なりに考察してみたい。なお、実際のコーヒーの味わいは、メッシュ(挽目)や湯温、濃度、そして水の品質(PH)で大きく変わり、むしろこちらの方が影響は大きいと思うが、キリがないので今回は割愛している。

(1)伝統的な抽出方法
10年くらい前までは、ほとんどの本に押しなべて書かれていた方法である。要約するとこんな感じか。

- 平らにセットした珈琲粉に全体を湿らせる程度にお湯を注いで20-30秒蒸らしてドームを作る
- 最初は小さな「の」の字を描きながら、なるべく細くお湯を注いで抽出していく
- 粉を暴れさせたり珈琲粉の層を崩さないように、かつ膨らんだ粉の状態を保ちながら、だんだんと「の」の字を大きく注いでいき、目標量に達したらお湯を残したまま素早くドリッパーを外し、上に浮いているアクを入れないようにする。粉の状態がよいと、2段、3段ロケットのように、お湯を注ぐ度により新たなコーヒードームがより高く盛り上がるのが実に気持ち良い。
伝統的な抽出方法

(2)ALLPRESSのやり方
エスプレッソで有名なのALLPRESSである。ここの手法は有名ではないかもしれないが、展示会で試飲した珈琲が美味しく、頂いたカードに書かれていた方法が明快だったため、取り入れてみた。
- 挽いた豆の倍量のお湯を注いで30秒蒸らす。
- 残りのお湯を中心に向かって注ぎ、蒸らす工程を含め、2分45秒ですべてのお湯を注ぎ終える

うーむ、実に簡潔でよい。覚えやすい。(^^;
ALLPRESSメソッド

https://hidenori-izaki.com/

NHKの逆転人生で一躍有名になった井崎氏の手法は、従来の方法から見ると完全に逆を行くもので、以下の特徴がある。

- 蒸らしに使うお湯はタップリめ(全体の20%)
- 途中でドリッパーをグルグル回す
- コーヒー粉の層は崩し続ける。ペーパーにもお湯をしっかりかける!

なお、類似方法として、ドリッパーをグルグル回す代わりに、抽出中の粉をスプーンなどで掻き混ぜる方法もあるが、この方法は最初、確かオーストラリアの抽出世界チャンピオンがやったんだったかな。

粕谷メソッド

これは最近僕がしばしば使う方法である。狙った味を安定して出す、という意味では秀逸な方法である。デメリットとしては、抽出時間が長い分、過抽出気味になり、くどい味になったり、少しえぐみが出てしまうことがあることであるが、最良の状態の珈琲粉であれば、余すところなく成分を取り出す方法として素晴らしいと思う。ただし3分半は少し長い。

(5)堀口俊英氏の20ml-10秒リズム抽出法
堀口リズムメソッド

大御所の堀口氏の最新著作「THE STUDY OF COFFEE」に書かれている手法で、240mlを抽出するなら、毎回20mlのお湯を注いでいる時間も含めてずっと10秒間隔で注ぎ続けて、トータル15回、300mlを注ぐと、一杯分240mlの珈琲が出来上がる、というもので、ぶれる余地もなく機械的に抽出できるので初心者にも大変分かりやすい。

さて、この5つのメソッドを比較して共通部分と矛盾する部分を取り出して、特に特徴的な部分を黄色く色づけしてみた。うーむ、うーむ。なんだか何が正しいのか分からなくなる (^^;

抽出方法比較
機械的な手法で安定した抽出を目指す

これをもってしても分かるように、ペーパードリップだけ取っても、抽出方法に絶対はないことが分かる。結局、色んな手法を試しながら、一番心地よく継続できる自分のスタイルを見つけていくしかないのだろう。ちなみに僕は毎日5,6杯はペーパードリップするが、どの方式でもなく、焙煎度、粉の状態などから無意識に各手法を組み合わせたり、微調整しているように思う。

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閑話休題

珈琲焙煎を理解する際に、焙煎機の種類や特徴から入ると混乱するが、豆温度、RoR、最終的な排出温度と焙煎度で味は決まる、と共通的に考えると分かりやすい、というのが僕の持論であるが、抽出においても、お湯の温度、お湯と粉の接触時間、の2点で捉えたほうが結局は分かりやすい。これはJ.C.Q.A.コーヒーインストラクターの考え方である。

・コーヒー成分は水に溶け出しやすいもの、溶け出さしにくいものが複雑に含まれている
・各成分は、湯温により溶けやすさが異なる

この考え方であれば、粒度が細かいとどうなるか、湯温が高いとどうなるか、ゆっくり注ぐとどうなるか、など抽出メソッドに関係なく、なぜそうなるかが理解しやすい。






優秀な焙煎器具「煎り上手」の進化系

珈琲焙煎はちょっとした化学実験である。実験の結果は、焙煎豆という見える形で出てきて、最終的にはそれを粉にしてコーヒー液に抽出して味わうことで、その実験がうまくいったかどうか判断するわけであるが、話はそう簡単ではない。というのも、コーヒーの味の感じ方や好みは個人差がとても大きいからである。特に苦み成分を複雑に多数含むコーヒーの場合、旦部幸博氏によると、ある種の苦みを強く感じる人もいれば、全く感じない人もいるということなので、もう好みとかいうレベルではなく、味わっているモノ自体が異なるといってもよいかもしれない。

それはさておき、珈琲焙煎を自分で操れるようになると自分好みの味を作ることは出来る。自分好みの珈琲豆を、あちこち出掛けたり、ネット上で探し回るのは楽しいが、一つの珈琲生豆から驚くほど多彩な味を作れることを知ると、だんだんと闇雲な飲み歩きはしなくなる。自分がそうであった。

ということで、本題の家庭焙煎である。家庭焙煎はもうちょっとしたブームであり、例えば焙煎や焙煎機に関するFBグループを検索すると世界中には驚くほどたくさん存在することに気付く。一番お金を掛けない方法としては、100均などで売っている安価な手鍋やフライパンを使う方法や、小さな手網を使う方法があるが、ほとんどの人は直感の世界で焙煎しており、毎回上手くいった、いかなかった、という結果だけに一喜一憂しているのではないであろうか。 この場合、たとえ千本ノック的に焙煎しまくったとしても、毎回狙った味を出したり、前回と同じ味を再現するのは最後まで難しい、というか理論的に不可能である。 

そこで僕が考えているのは、小さな焙煎器具にも科学的アプローチを加えることで、短期間で焙煎を理解して、根拠を持った焙煎で味作りが楽しめるようにできないか、ということである。

煎り上手+温度計
<温度計付き煎り上手>

煎り上手+Artisan
<Artisanロガーが動作しているラズパイを接続した煎り上手>

Artisanグラフ+煎り上手
<煎り上手で焙煎したときのプロファイル例>

今手始めに実験しているのが、発明工房の「煎り上手」の進化版で、一つは柄の部分にデジタル温度計を差し込んだバージョンで、これだけでもかなりのことができるようになる。もうひとつは、Artisanロガーにつながるバージョンで、こちらが本命、これがあれば、文字どおり短期間で焙煎のなんたるかが学べると信じている。 

この仮称「焙煎見える化キット」付の煎り上手と、厳選した練習用、ステップアップ生豆セットを使えば、一か月後には誰でもちょっとした焙煎師になれるとしたら如何であろうか。なにしろ焙煎は、焙煎機の種類や手法で捉えると無数に方式があってどれがよいのやら難解を極めるが、焙煎プロファイルという本質で捉えると、焙煎方式、器具だけでなく、バッチ量ですらあまり考慮しなくてもよくなる。純粋に化学実験的に理解できたなら、将来本格的な焙煎機に進んだとしても、それも直ぐに理解できのではないだろうか。



嶋中氏の本「HOME COFFEE ROASTING」

この本のタイトルを見て実は少々ショックを受けた。というのも、自分は今、家庭焙煎コンサルティングを本業にしようとしており、まさにこういう本を自分でも出したいな、と考えていた矢先だったからである。

嶋中氏の家庭焙煎の本

しかも著者の名前に旦部氏の名前がある。旦部氏と言えば、珈琲マニアなら知らない人はいない有名な珈琲研究家であり、僕自身、特に氏の「コーヒーの科学」には大変お世話になっている。エビデンスに基づいた旦部氏の発言には絶対的な信頼を置いてきた。そこにさらに嶋中労氏である。以前ブログにも書いたとおり、嶋中氏の本は、まるでその人とずっと一緒に過ごしてきたのではないかと思われるほどにリアルさを感じさせるもので、講談調の文章と相まってとても楽しい。ということで大いに期待してアマゾンで早速注文してみたら翌日にはもうポストに入っていた。

さて、読んでみての感想は、正直いって少し拍子抜けであった。もっと技術書よりを期待していた。そもそも共著者に旦部氏の名前はあるが、あくまで全編が嶋中氏の文章であって、内容は珈琲焙煎家などにインタービューしたエピソード満載の珈琲物語的要素が強い。

タイトルの「HOME COFFEE ROASTING」は、昨今の自宅珈琲ブームもあり、家庭焙煎をしている人や、これから開始したい人には実にアピールする。そして表紙には旦部氏の名前である。これは一本取られた! という感じ (^^;

さて内容であるが、さすが嶋中氏の文章だけあって、とても読みやすく一気に最後まで読める。ただし、「コーヒーの鬼」などの迫真のルポぶりに比べて、少しやっつけ仕事的な内容にも見える。そもそも嶋中氏はジャーナリストであって焙煎士ではない。焙煎を実際にやっている者なら突っ込みを入れたくなるような箇所もちらほら見当たる。恐らく色々インタビューして得られた情報は自分で体験したわけではないと細かい部分で消化しきれず、本にまとめるには苦労されたと思われる。

例えば文中に以下の説明があるが実態は逆だろう。モカは小粒でも元気にハゼるし、思いがけず大きく膨らむ。一方、ブラジルは総じてハゼも大人しく、膨らみ方も穏やかで一様である。

<112ページからの抜粋>
「例えばナチュラルのモカと同じくナチュラルのブラジルを比べると、モカは線香花火みたいに弱々しくハゼるが、ブラジルは力強くハゼる」

前半の「お家焙煎の科学」の稿は、旦部氏の「コーヒーの科学」を読んだ方が分かりやすい。手網や手廻し焙煎機の使い方の説明も一人の意見を受け売りしている感じで、やや中途半端である。途中、無理やり水増ししたような内容が入って、読んでいると少々中だるみするが、流石にポイントは抑えている。例えば奇しくも先日僕がブログに書いた大坊氏風の1ハゼなし焙煎についてもなかなか分かりやすく説明している。ただしこれも大坊氏自身の本に書かれている内容と同じではある。

また本書の随所に引用される旦部氏や田口氏の発言については、旦部氏、田口氏の著作を読み漁っている者にとっては既知の内容ばかりであった。

とここまで偉そうなことばかりを書いてきたが、全体としては主だった珈琲の大家の考えや知見を巧みにキュレーションしており、しかも読みやすい文章にまとめているのは流石だと思う。僕は珈琲本を買っても内容が今一つだと直ぐに手放してしまう性分であるが、この本は僕の蔵書に加えようと思う。

生豆の水洗いの効果検証(カッピング編)

→ 訂正 (2021/12/9)
内容更新しました!

まず今回使用した珈琲豆であるが、両方ともウォッシュト精製のニュークロップで、ブルンジがレッドブルボン種、ウガンダがSL28/34である。SL28はブルボン種の突然変異、選抜種なので、まぁフレーバーが似ていても不思議はない。国の位置関係は下記の図のとおりで、ウガンダは赤道直下、ブルンジはルワンダを挟んでほんの少し北側に位置しており、確証はないが気候やテロワール的に似ていてもやはり不思議はない。

Map_of_Uganda_and_neighboring_countries

ということでこの二つを同じ焙煎度に煎ってみたわけだが、正直これほどよく似た味になるとは思わなかった。自分でも3回カッピングして、ウガンダ・ブルンジを正しく区別できたのは2回目だけ、水洗いの有無に至っては、毎回違う形で間違えてしまった。

一方、今回協力して頂いた僕の焙煎仲間の3名のカッピング結果であるが、こちらもバラバラ、誰も全問正解はなし。一番好みの豆についても意見は割れた。ただし普段、水洗い焙煎をしているY氏のみ水洗いをした・しない、の区別に関しては全問正解してくれた。

→ 訂正 (2021/12/9)
協力してくれた3名のうち、普段から手網や手鍋で水洗い焙煎をされている2名は、水洗いしたかどうか、についてピタリと正解してくれました。ただ微妙な差であったとも言っています。

水洗い比較焙煎豆
水洗い比較珈琲粉
水洗い比較・水色

自分も含めて4名、皆それなりに普段から正しい珈琲を飲んでおり、一般の方よりはずっと珈琲に精通していると自負している。僕自身コーヒーインストラクター1級に合格するために、かなり微妙な違いが分かるまでにカッピング訓練を積んできた。しかしその4名をもってしても、ここまで差がはっきりとしないとはちょっと想定していなかった。

今回は通常は豆の性格が明確に出やすいミディアム・ローストにして比べたが、深く煎るとどうなるか、ニュークロップではなく、カレントやパーストクロップではどうか。はたまたナチュラル精製や昨今流行りのアナエロビックのように発酵香の強い豆ではどうか等、まだまだやってみたい実験はある。

さらに経験的に角が取れて味がかなり丸くなると信じている、お湯洗い(いわゆるアームズメソッド)の効果は実際どれほどのものなのか、なんて検証もいずれはやってみたい。

いずれにせよ今回の結論として、少なくともウォッシュトの新豆で元々雑味が少ないスッキリとした味わいの豆に対しては、水洗いは無用、ということであった。

→ 訂正 (2021/12/9)
上記の結論は少し性急であった。少なくとも水洗いしたかどうかを見分けることは出来る人には出来るようである。ただそれはカッピングという手法を通してその微妙な違いが分かる、という差ではあるかもしれないが、その微妙な差が雑味の多寡やフレーバーの違いで付加価値を生んでいるならば、手間を掛けてでも水洗い焙煎には価値があることになる。いずれにせよ、珈琲豆のオリジンや状態との相性はありそうで、いつでも水洗いすれば味が良くなる、ということはないように思われる。

生豆の水洗いの効果検証(準備編)

手網や手鍋、あるいはアウベルクラフトなどの金網・直火式といった比較的原始的な道具で焙煎されたことがある方ならご存じのとおり、珈琲豆を焙煎するとどうしてもチャフが飛び散る。チャフ・コレクター付き焙煎機であればほとんどはそこに溜まるが、それでも珈琲豆の出し入れのときなどに多少は飛び散るので、焙煎機の横には掃除機が欠かせない。

ちなみにチャフは英語で chaff、カスとかくずといった意味で、お米ならば、もみ殻がチャフである。珈琲豆の場合は、コーヒーチェリーという果実の種子の周りにあった周乳が、精選過程で乾燥されてされて種子が取り出される際に薄皮として残ったものである。生豆は英語では Green Bean、テカテカ光っている薄皮は Silver Skin (= Chaff) である。日本語で生豆だからといって Raw bean とは決して呼ばれない。 閑話休題。

さて僕が追及している家庭焙煎の世界においては、通常、以下の3つの意図を持って焙煎前の生豆を水やお湯で洗う人がいる。一方で、小規模な自家焙煎店では、故森光氏の珈琲美美のように水洗いを看板にしているところが若干あるが極少数派であり、まして大手珈琲焙煎業者が水洗い・お湯洗いをしているという話はとんと聞いたことがない。なぜであろう。

<生豆を洗う理由>
①洗ってチャフを取り除くことで、チャフの飛散量を減らす
②洗うと盛大に汚れが取れるので、なんとなく安心(残留農薬があってもなくなる?)
③味がマイルドになる。雑味が減るなどの付加価値が付く。

①はちゃんとした焙煎機であれば解決

②については迷信的な部分が大きいと考える。確かに洗うと汚れが出るが、本来は焙煎の過程でチャフと共に剥がれ落ちる部分である。ナチュラル精製やハニー精製の方が落ちる汚れは多い。じゃ、ナチュラル精製の豆はより汚くて害があるのか? というとそうは思わない。
また残留農薬が種子にまで及んでいるとは思わないが、仮に微量が残っていたとしても200℃の高温で焼く過程で無毒化されるだろう。一部の柑橘類のようにポストハーベスト農薬でも使われていない限り、まず安全と考えていいと思う。生豆に直接農薬をかけたり燻蒸したりしたら検疫でひっかかるし、味が変わってバレるはず!

さて問題は③である。一般的には、洗うことでフレーバーは少しぼやけて、穏やかな味になると考えられている。この点は付加価値というより味作りの世界で、好みの問題である。では雑味は減るのか? 誰にとっても雑味はない方がいい。

そこで、洗う手間を掛けることの価値がどれほどあるのか検証してみることにした。
使った生豆は、ブルンジ・ギシャ農園とウガンダ・アフリカンスノーで、両方ともウォッシュト精製のニュークロップである。それぞれ600g分を用意し、水洗い用、そのまま焙煎用に二分する。なお、ブルンジの方は欠点豆が最初からほとんど見当たらないが、ウガンダは通常、300gで20-30粒程度取り除いている。


ブルンジ水洗いの様子

水洗いには回転式の野菜切りを使って、お米を研ぐようにゴシゴシとやる。グルグル回して水を切った後はタオルで残った水分を取り除き、さらに焙煎豆用の冷却機に入れて15分くらい乾かす。

ブルンジ水洗い前後重量

上の写真のように見た目はしっかり乾かしたようでも、やはり10gほどは水分が残っていることが分かる。実は次の点が水洗いのもう一つの大事なポイントで③にも通じる話なのだが、水に漬けることで欠点豆が見つけやすくなるのである。小さな虫食い跡や微かなカビなども色が濃くなり見分けやすくなる。また死に豆はより白っぽく見えるため、これも取り除きやすい。下の写真は水洗い前に取り除けなかった欠点豆である。まぁ実際は残っていても気付くほどのフレーバーのダメージは起こさないレベルの欠点豆ではある。もともと欠点豆の多いウガンダの方がより多く見つかったがそれは当然か。

水洗いで見つかった欠点豆



水洗い効果確認(生豆4種)
<生豆の状態、上段が水洗い無し、下段が水洗い有、見た目にはほとんど差がない>

水洗い効果確認(焙煎豆4種)
<なるべく同じ焙煎プロファイルで焼いて、同じように見える4つの珈琲豆>

ウガンダは排出温度を211℃、ブルンジは213℃で揃えた。両方ともより豆本来のフレーバーが分かりやすいミディアム・ローストである。焙煎プロファイルもなるべく揃えてみたが、熱の入れ方なのか水洗いによる水分含水量なのか、同じ豆なのに1ハゼ開始温度に結構差が出たためDTR値は差が出た。一方与えた熱量であるAUCについてはいずれも157C*min [DE: 160℃から測定開始]前後になるようにしたことで、焙煎指数的にもほぼ同じような値になり見た目のロースト度合いもあまり見分けがつかないと思われる。
Burundi_RoastProfile
<最初に焼いたウガンダ水洗いをBackgroundに薄く表示して、その曲線をなぞっている>

水洗い検証準備完了

さて、これをカッピングして味の差を見ていこうと思うが、僕の家庭焙煎仲間の数名にもサンプル豆を提供してブラインド・カッピングして頂き、先入観のない状態で一緒に比べてもらう予定である。結果はまた近日中にブログにアップする。

CR600で大坊珈琲ライクな焙煎に挑戦!

以前書いた2ハゼなしの長時間焙煎というブログ記事にコメントを頂き、その方には直接お返事させて頂いたが、そういえばこの手の実験はユニオン手廻しロースターの頃は熱心にやっていたけれど、今の焙煎機では試したことがないな、と気付いた。いわゆる大坊珈琲風、どこまでも深い苦味とコクがあり、それでいてキツイ苦味ではなく、むしろ最後には甘味すら感じるコーヒーを急に作ってみたくなり、届いたばかりのブルンジのニュークロップを使って早速トライ。

目標は30分で、ハゼはなるべく穏やかにする、場合によっては起こさない、という方針。1ハゼ温度の194℃に近づいたら、RORをグッと落として、2ハゼ温度の220℃になかなか到達しないように、火力を最小にするだけでなく、ダンパーよろしく豆投入口をときどきパカパカ開けて熱を逃がす手法で写真のような焙煎を行った。

すると実際、1ハゼは起きず、2ハゼもとても穏やかに始まりそのまま長々と続いたが、流石に30分まで引っ張る勇気がなく、25分ほどで排出。なかなかいい感じの黒々とした美味しそうな珈琲豆が出来上がった。RoastLiteの焙煎度チャートと比べてみても、間違いなくフレンチ・イタリアンの世界に到達している。やってみて気付いたのは、Artisanロガーが繋がっていることで、比較的容易にこういった特殊焙煎が出来る、ということだ。大坊氏の本を読むと、焙煎が進むにつれて火力をどんどんと落としていく、すると1ハゼが起きたり起きなかったり、といった説明をしているが、恐らく今回僕がやったような焙煎を温度計なしの手廻し焙煎器ながら職人的な感覚で行っていたのであろう。

ブルンジ大坊風焙煎
<注:グラフをセーブする前にリセットしてしまい、この写真しか残せず>


ブルンジR25
ブルンジ極深煎り

今日、取り合えずV60でいつものようにドリップしてみた。期待どおりの素晴らしい苦味。濃いめに淹れてもストレートで素直に美味しい。大坊珈琲かくありき、という感じ(^^)
一晩立ってもあまり油分が滲出していない点も、過激に植物細胞壁が壊れたりせずに深煎りの世界に到達できたことを物語っている。次は点滴ネルドリップでも淹れてさらに大坊珈琲に近づいてみよう。400gほど焼いたので当分は楽しめそうである。
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