香豆火珈琲 (Kaz - Feel - Coffee) - 引越し済


KAZUHICOFFEEは 2021/11/11に開業いたしました。 屋号はそのままKAZUHICOFFEEです。

新HP: https://kazuhicoffeelab.com/
旧HP: http://www.kazuhicoffee.com/
Base: https://kazuhicoffee.thebase.in/

今はまだ珈琲豆のネット販売と時折行う焙煎教室だけですが、これから珈琲の家庭焙煎や小型焙煎機のコンサルティング業という分野を開拓したいと考えております。まずは発明工房さんの「煎り上手」や安価な小型ドラム型焙煎機などにちょっとした装置をつけて、焙煎プロファイルがリアルタイムに見えるようにすることで、短期間で焙煎の技術を学んだり、既に焙煎を開始されている方の技術が上達するようなプログラムを用意したいと考えております。これからまだまだやること山積ですが、まずは出発致しましたことお知らせ致します。 珈琲が仄かに好きという皆様が、もっともっと本物の珈琲のことを知って楽しんで頂けるようにすることが次の自分のミッションだと考えております。家庭用サイズの小型焙煎機を海外から輸入して販売する等も計画しております。皆さまが美味しい珈琲をいつでも気軽に楽しめるようにすることを全身全霊でサポートしたい!!

煎り上手テスト - Artisan ロガーなし vs 有り 比較

ブルンジ焙煎by煎り上手(粉)横

今日は僕のクラウドファンディングの中で使いたい動画を、パートナーのT氏に撮って頂いたが、それは 煎り上手だけで焙煎する場合と、ロガーを繋げて焙煎する場合の比較テストでもあった。使った生豆はブルンジ水洗式のニュークロップで、密度が高く火が入りにくい豆である。この手の豆は焙煎初心者には少々手強い。合計4回焙煎をして、最初の3回はArtisanなし、4回目だけいつものようにArtisanを繋げて焙煎した。Take-1、Take-2は1ハゼ開始から2分程度の中煎りを目指して焼いた。しかし温度計がないとつい火に近づけ過ぎてしまう。

Take-1:説明書どおり予熱なしで焙煎。5分いかずにバチバチ爆ぜだしたので7分弱で排出
Take-2:Take-1よりは時間をかけた。しかし結果は逆に少し浅くなってしまった
Take-3:2ハゼまで焼く意思を持って10分以上かけて焙煎。2ハゼ開始から10秒で排出
Take-4:Artisan画面を見ながらミディアムローストに焙煎 (プロファイル参照)


焙煎直後ではあるが、早速カッピングで味を確認。

結果は予想以上に歴然とした差が出て、大変興味深いものであった。つまり焙煎豆の見た目は大差ないのに、コーヒーにしてみると圧倒的に Take-4だけが美味しく、その他は明らかに美味しくない。Take-2に至っては芯残りが酷く、廃棄するしかないレベルであった。深く煎ったTake-3は苦みを強調した誤魔化しの味。ミルクを入れればそれなりに美味しいかもしれないが、ブルンジの良さは消失している。

まず焙煎豆の様子を全体からみたのが下記の写真。この様子だけを見て、Take-1, Take-2が明らかな失敗焙煎と見破ることは困難である。
ブルンジ焙煎by煎り上手


カッピングのために、7gずつ計量して並べたのが下の写真。この時点では、Take-1,4の豆面、色は類似しており、同程度の焙煎度に見える。Take-2はこの時点で既に浅い。
ブルンジ焙煎by煎り上手(豆)


粉に挽くとこんな感じ。Take-1は豆のときより色が薄い。つまり、豆の外側の焙煎進行に比べて、豆の内部の進行が遅れていたことがこの時点で既に分かる。
ブルンジ焙煎by煎り上手(粉)


水色はこんな感じ。ブラインド・カッピングとして、お湯をかける前に位置をシャッフルしているため、明らかに水色が濃い左上のTake-3 以外は、どれが何番かここでは分からない。
ブルンジ焙煎by煎り上手(ブレイク前)


カッピングするまでもなく、ブレークの香りだけで Take-2の芯残りは分かってしまうレベル。一方、Take-1, Take-4は香りだけでは区別がつかない。この2つを並べてみると水色も似ており、やはり区別がつかない
ブルンジ焙煎by煎り上手(水色-1,4)

しかし! カッピングしてみると、もう明白に Take-4だけが本来のブルンジの美味しさ、心地よいオレンジ系の甘い柑橘フレーバーが出ており、一見よく似ている Take-1はシャープな酸味ばかりが目立ち、甘みが全く感じられない。 煎り上手だけで焙煎するのは長くやっていなかったが、正直、ここまではっきりと差が出るとは思っていなかった。ちなみにTake-4の焙煎プロファイルはこんな感じ。Artisan付き煎り上手があれば、これと同じ味になるように焙煎することも容易である。
ブルンジ焙煎by煎り上手(Take4プロファイル)

追記: 2022/01/27
本日、上記の Take-1, 4 だけ、V60で普通に抽出した場合の比較も行った。
なるべく同じ抽出になるように、2つ並べて同量の豆を粉に挽いたものをドリッパーにセットし、同じポットから同時抽出を行った。結果は以下のとおり。
ブルンジ焙煎by煎り上手(抽出比較)

Take-1:
 アロマ:粉の状態ではキャラメルのような果実感も感じられ心地よい香り
 フレーバー:
  - 熱いとき:酸味が多少きつめだが悪くない味。3rd wave風の浅煎りの味
  - 冷めとき:酸味が尖ってきて甘みが少なくなる。

Take-4: (with Artisanロガー)
 アロマ:とてもバランスの良い気持ち良い香り。Take-1より深く複雑な香り 
 フレーバー:
  - 熱いとき:酸味・苦み・コクのバランスが程よく、とても美味しい。
  - 冷めたとき:完全に冷めきって飲んでも、全く尖った部分がなく、円やかで美味しい。

結論として、カッピングのときよりは優劣の差は少なく、Take-1の焙煎も悪くないという結果であった。しかしいずれにせよ、Take-2のように完全に失敗することもあり、狙った味を安定的に再現する、という意味ではロガー付きが圧倒的によい。ロガーで確認して、慣れてくれば、温度計が付いているだけでも、かなり狙いどおりに焙煎出来るようになると思われる。

Sandbox Smartのプリセット焙煎プロファイルの実力

Sandboxコチャレ3段階焙煎

先日、僕のブログを見た方から Sandbox Smartに関する問い合わせがあり、その後、話の流れでその方に僕のログハウスまで来て頂き実際にこの焙煎機に触って頂いた。実は昨年5月に購入して以来、最初の印象が僕にとっては少々期待外れだったため、他のことで忙しかったこともあり、正直この焙煎機はあまり使っていなかった。気が付けば、Makuake限定の無償でついてきた6か月間のVIPモードも剥奪されている。よって今使えるのはプリセット・モードだけであるが、なぜかそれが表示できない。どうやら現在のソフトウェアバージョン(v3.1.1-build 280)のバグらしい。以下の画面が出て、プロファイルは何も出てこない。うーむ。
Sandboxソフトバグ


正確には、焙煎機をブルートゥース接続するまではプロファイルのリストは正常に表示されているが、デバイスを接続すると全部消えてしまうというバグである。なんでやねん!
と思って、いろいろ触っていたら、裏技発見!

それは、デバイスを接続せずにプロファイルを選んで、気にせずに開始ボタンを押す、というもの。すると、デバイスを接続するか確認が出るので、そこで繋ぐと何事もなく動くではないか!

ということで、最近入手した エチオピア・イルガチェフェ・コチャレ・ウォッシュトの豆でいくつかのパターンを焙煎テストしてみた。選択肢は以下の8種類である。VIPモードのように産地や精製方法の区別はないので、後はこれらを元に手動で編集したプロファイルを作っていくことになる。今回は面白そうな以下の3パターンを確認してみた。

1) 酸っぱい香り味
2) スロー中煎り
3) 強くてまろやかな味

ちなみに下記の8段階は上から下に向かって焙煎度合いが強くなっていくわけであるが、スローxxというのは、1ハゼからカウントする排出までの時間は同じで、投入温度や最初の加熱が控えめで焙煎時間だけが延びるようになっている。

Sandboxプリセット・プロファイル


1) 酸っぱい香り味
Sandboxプリセット浅煎り酸香


2) スロー中煎り
※これは焙煎最後で豆温度が下がってしまっており、Scott Raoに言わせれば最悪な焙煎。香りが抜けて、フラットで段ボール紙のような味になるパターンである。
Sandboxプリセット・スロー中煎り

3) 強くてまろやかな味
Sandboxプリセット・まろやか深煎り

取り合えず、焙煎したてをV60でペーパドリップして飲んでみた感想は以下のとおり。

1) 酸っぱい香り味
・イルガチェのウォッシュトはやはりスィートスポットが広く、1ハゼから50秒で停止して最初の写真のとおり、かなり浅い焙煎であるが、きつい酸味などなく、レモン系の柑橘フレーバーが楽しめる。ただし香りのピークには全然達しておらず、ちょっと物足りない感じの味。

2) スロー中煎り
・最初に飲んだ感想は、まさにペーパーのような味。全然酸味も香りも感じない。こりゃ酷いな、と思いながら最後まで飲んでいたら、冷めてきたらさすがイルガチェ、やはり柑橘が強く香ってきて、これはこれでまぁいけるかな、と。ただこれもベスト焙煎でないことは確かである。

3) 強くてまろやかな味
・これは2ハゼに突入して10秒ほどで止めた焙煎で、流石にもう柑橘系は感じられず、コーヒーらしい円やかな苦味が口の中に広がり、3つの中では一番の飲みごたえがあり美味しい。ただし、流石にここまで焼くと、言われなければ、イルガチェ・ウォッシュトとは気が付かないかもしれない。

それにしても、この浅煎りプロファイルのネーミングである。酸っぱい香り味。日本人なら絶対に付けない命名で、ちょっとクスっとさせられた。

酸っぱい香り味

この浅煎りプロファイルは実際にはデフォルトは一ハゼ開始から45秒で止めるようになっているが、一番上の浅煎りプロファイルはなんと30秒である。そこまで浅くてはさすがに芯が残っていそうであるが、一応今度やってみるかな。

Sandboxプリセット・浅煎りプロファイル

煎り上手でどこまでCR600の焙煎に迫れるか?

現在、煎り上手+Artisanを使った焙煎教室プロジェクトをクラウドファンディングに出そうと準備をしていることもあり、連日、煎り上手を使った色んなテストを行っている。本日は一昨日、僕のメイン機 CR600で焙煎したブラジルの豆を、煎り上手を使って全く同じように焼くにはどうすればよいか、ということで実験してみた。
煎り上手でCR600を再現様子


焙煎度合いを同じにするために考慮すべき点としては以下が考えられる。

①同じ排出温度で取り出す
②一ハゼから排出までの時間を揃える
③AUC(Dry End/Yellow Pointから排出までに与えた熱量)を揃える
④焼き色を揃える
⑤プロファイルをなるべく同じラインに乗るようにして、同じ時点(温度 or 時間)で排出

焙煎道具が全く異なり、容量の違い、蓄熱量の違いも大きく、まず⑤は無理、④も煎り上手の形状から豆色を直接見るには暗いので、これも除外。理想は①②③が全て揃うことであるが、それはなかなか難しいので、取り合えず①を採用しようとまず考えた。

しかしながら、そもそも1ハゼ開始温度に約3-4度の差があり、煎り上手の方がいつも高めの温度でハゼが開始する。 そのことも考慮すると、煎り上手でCR600と同じ温度で排出すると、そのオフセット分だけ実際には低い温度で排出することになる。実際やってみたら、明らかに焼きが浅く、焙煎指数(Weight Loss)で見てもCR600の-15%に対して-13%程度となっていた。
煎り上手で同じ焙煎比較
<見た目も豆面もまずまずそっくり>

そこで4℃ほど先まで進めてみた結果がこれ。なかなかのもので、見た目はほぼ同じ。焙煎指数もほぼ完全一致、となり、どうやら再現出来たようである。


こちらがCR600での焙煎した時のプロファイル(バッチ量:500g)
ClassicoHR_by_CR600

こちらが煎り上手での焙煎した時のプロファイル(バッチ量:70g)
ClassicoHR_by_IriJozu


二つのプロファイルを並べると確かに似ているかな。

ブラジル焙煎CR600vs煎り上手


あとは味の方であるが、今回使ったブラジルはいつもの横浜のカフェへの納品用であるため、比較テストに使った豆はそっと袋に戻しておいた。

1ハゼは起こす豆と起こさない豆があるという説について

3粒の珈琲豆

これは約223℃まで焙煎を進めたグアテマラの豆である。
前からやってみたいと思っていた実験に、珈琲豆を2,3粒ずつ何度も焙煎しては、1ハゼが起きる豆と起きない豆に分けてその比率を調べたい、というものがあった。

今日はいつものように、使い勝手のテストも兼ねて、煎り上手+Artisanを使って、海の向こうコーヒーさんから取り寄せたサンプル豆(インドネシア・ワハナ農園ナチュラルとミャンマーのマイクロロット・レッドハニー)などを焙煎した。その後、ちょっと思いつきで、中途半端に残っていた先日の丸紅さんのグアテマラ豆を、3粒だけまだ熱い煎り上手に放り込んでみた。

そして普通に加熱していくと、3粒だから早くハゼが来るかと思ったが、そんなことはなく、全く正確に200℃まで加熱したとき、パチ、パチ、パチとはっきり連続音が3回聞こえた。どうやら、3粒とも1ハゼを起こしたようである。もちろん、これを持って、全てのコーヒー豆は1ハゼを起こすとは言わないが、少なくともハゼを起こす豆の方が、起こさない豆よりもずっと多いのかな、と思った次第。

ちなみにそのまま2ハゼまで起こそうと加熱し続けたら、220℃に到達する前に、なんだか1ハゼっぽいようなハゼ音が断続的に10回以上聞こえた。そして、2ハゼ温度になっても、ピチピチ音は生じず、そのまま静かに炭化してしまった。うーむ、どういうことかな。

今度は7粒くらいで実験してみようと思う。

焙煎教室

このところ、特に宣伝はまだしていないにも関わらず、ぽつりぽつりと焙煎教室の依頼が来るようになってきた。本日は知人2名が僕のログハウスに来てくれて焙煎教室を開催。内容はコーヒーの素材となる品種、栽培品種、精選方法について少し詳しく説明した上で、エチオピア・イルガチェフェのナチュラルとウォッシュトの豆を、Artisanロガー付きの煎り上手を使い、ほぼ同じ焙煎度合いに焙煎して頂いた。ロガーのお陰で、初めてとは思えない完璧な焙煎具合で、素晴らしいミディアムローストに仕上がった。うかつにも焙煎豆の写真は撮りそびれてしまったが、下記のプロファイルを見れば、見る人が見ればこれが如何に完璧に近い焙煎か、理解して頂けるかと思う。

エチオピア・ナチュラルby黒沢さん


エチオピア・ウォッシュトby小高さん

ちなみに、ナチュラル、ウォッシュトで選手交代している。
煎り上手by黒澤さん
煎り上手by小高さん

焙煎後は直ぐに挽いて、ペーパードリップで全く同じタイミングになるように抽出して味わって頂いたが、ナチュラルの方はフローラルな香りでとても甘く、トロピカルフルーツやドライフルーツ感のあるフレーバーは期待どおりのもの、そしてScott Rao氏が推奨する完璧な比率 Dry-Maillard-Finish = 50:30:20で焙煎されたウォッシュトの方は、レモンティーライクで爽やかな柑橘が香るクリーンな味わいで、イルガチェ・ウォッシュトのお手本のような味に仕上がっていた。まさにArtisanの成果である。

焙煎プロファイル違いのカッピング(丸紅グァテマラ編)

さて、昨日焙煎した4種類+リファレンスとしたセンチュリーフレンド坂下氏焙煎のグァテマラ・ウェウェテナンゴ(丸紅)のカッピングである。いつものように、プラカップにステッカーを貼ったものを用意して、それを裏返してシャッフルすることでブラインド・カッピングとした。手法はJ.C.Q.A.方式で、7gの珈琲粉に対してカップ一杯すりきり(約135cc)の熱湯(95℃)を注いで4分後にブレイク。さらに少し冷めるまで2,3分おいてからカッピング開始。
グァテマラ5種カッピング準備
この時点ではまだ上の段が右から①②③、下の段が右から④⑤と並んでいる。
①センチュリーフレンド坂下氏によるミディアム・ロースト(以下、SFの豆)
②焙煎度 84.4%, DTR=19.8%, AUC=230C*min
③焙煎度 84.3%, DTR=24.9%  AUC=308C*min
④焙煎度 83.1%, DTR=30.3%  AUC=333C*min
⑤焙煎度 80.9%, DTR=38.6%  AUC=419C*min

グァテマラ5種カッピング準備2
粉に挽くとこんな感じ。
④と⑤は色が異なるのですぐに区別できるが、①②③は色だけでは判別不能。

グァテマラ5種カッピング準備3
お湯を注いでからは、シャッフルしてもうどれがどれだか分からない、、といいながら
やはり④と⑤は既に色だけでも異なる。
特に⑤はかけ離れて深い焙煎なので、もう立ち昇る匂いからして全く異なる。

さて結果である。

結論から言うと、やはり同じ焙煎度合いの①②③は非常に似たフレーバーであったが、慎重にカッピングすると、②の豆が一番、柑橘系の酸味が感じられた。実際この豆は投入カロリーが一番少ない。

一方、①と③は非常に似ていたが、これまた集中してカッピングすると、SFの豆の方がわずかに全体にマイルドな味わいであった。DTR=25%の焙煎は一つの理想形であり、SFの豆はそこに近いのか。

一方、興味深かったのは、焙煎度合いは一段上のハイロースト・レベルはずの④の豆が、普通に飲むと、焙煎度合いはミディアムだけど投入カロリーが近い③の豆とかなり味が近いと感じたことであった。AUCの数値と出来上がったコーヒーのフレーバーは、やはりかなり相関があるのかもしれない。

ちなみにフルシティまで焙煎した⑤の豆は当たり前ながら全く別フレーバーのコーヒーであり、これはこれで大変美味しい。大半の日本人が好む "The Coffee" という感じである。



煎り上手+Artisanでの焙煎テスト(丸紅グァテマラ編)

本日はずっと雨で、ログハウスのテラスには屋根があるとはいえ、なんとなく肌寒いので、キッチンで煎り上手テストの続きを行った。使った生豆は、先日、センチュリーフレンドの坂下さんから入手したグァテマラ・ウェウェテナンゴで、丸紅から購入しているとのこと。 リファレンスとして、坂下さんが焙煎した中煎り豆を購入しておいた。ちなみに 600円/100gの豆である。

坂下さんが使うのは自社で取り扱っている韓国製ハイテク焙煎機で、PRO1CEというもの。この焙煎機は水タンクを備えており、ハゼる直前に加熱している珈琲豆に霧吹きのように水をかけることで一瞬温度を下げて、ハゼ(音)を起こさないように焙煎を進めるという特殊な焙煎機である。このように焙煎するとロースト臭が付かないそうである。スターバックスの焙煎士のアイデアを、この韓国の開発メーカーが取り入れたそうで、非常に興味深いモデルである。
PRO1焙煎機

今回は同じグァテマラ生豆を、僕が開発中の焙煎道具、煎り上手+Artisanで焙煎してみた。
最初の2回は、坂下さん焙煎の珈琲豆と同じ焙煎度(ミディアム)で、DTRの比率を変えて焙煎。
次の2回は焙煎度合いを深めて、ハイローストとフルシティ・ローストといったところである。

今回のチャレンジは、セラミック網の導入でどこまで滑らかに焙煎出来るか、である。網は近くのスーパーSANWAで500円ほどで入手したもので、斜めスリットの開いた鉄板+セラミック網+鉄網の3層構造で直火は抜けない。
セラミック網

煎り上手+Artisan焙煎中

キッチンのガスレンジは温度センサーが稼働して勝手に弱火になってしまうため使用を断念。代わりに換気扇の下にカセットコンロを置いて焙煎した。

結論から言うと、セラミック網のお陰でRORの変動は抑えられ、とても安定することが分かった。一方で、直火が当たらないため全体的に火力不足で、早焼きは難しくなる。十分な予熱を行って、失速しないように加熱し続ける必要がある。

まず下記写真が、丸紅のグァテマラ生豆とリファレンスとした坂下氏焙煎の珈琲豆である。コーヒーにしてみると、焙煎が浅い割にとても穏やかな酸味で、苦味はほとんどなくマイルドなフルーティさがとても飲みやすい。生豆はスクリーン選別がない典型的なグァテマラ豆の様子で、大きな豆~極小の豆まで大きさのバラツキがとても大きい。クロップ年の表記はなかったが、丸紅の生豆の回転の良さからみて2021年ものだと思われる。
グァテマラ・モカベアー
<右は坂下氏がPRO1CEで焙煎した中浅煎りのグァテマラ豆。モカベアーというブランドで販売中>


なお、Take-1は予熱温度が低く加熱を失速させてしまい途中で中断。したがってグラフは Take-2から始まる。

Guatemala-Take2


Guatemala-Take3

グァテマラ・Take2,3

この2つは、重量減で判断すれば同じ焙煎度合い、投入カロリーで考えると、230C*minと308C*minなので、理論的にはTake-3の方が焙煎度が深いことになる。明日以降、カッピングで違いを確かめたい。

Take-2:  投入カロリー 230C*min、重量減 (84.4%)  ミディアム・ロースト (DTR=20)
Take-3:  投入カロリー 308C*min、重量減 (84.3%)  ミディアム・ロースト (DTR=25)

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Guatemala-Take4

Guatemala-Take5
グァテマラ・Take4,5

後半の2つは、それぞれ以下のとおりである。

Take-4:  投入カロリー 333C*min、重量減 (83.1%)  ハイロースト
Take-5:  投入カロリー 419C*min、重量減 (80.9%)  フルシティ・ロースト

さすがにこのくらいまで焙煎すると、焙煎直後からとても良い香りがしている。豆面も当然、綺麗になってくる。味わいは同じく明日以降のカッピングで確認するとして、Take-2, 3とは全く別のフレーバーとなっていることは間違いないだろう。

ちなみに、坂下さんは丸紅から購入した生豆はハンドピックはしないと言われていたが、ざっと見渡しただけで、やはり取り除いた方がよい欠点豆が多少含まれている。特に左上の方に見える発酵豆はまずい。1粒でカップ全体をダメにするという、あれである。
丸紅のグアテマラ欠点豆

さて、煎り上手+Artisanを使ったテストは明日以降も続く。

焙煎プロファイルの再現

パプア・天空の森

これは昨晩焼いたパプアニューギニア・天空の森・修道院のコーヒーである。
生豆で1KG分は、僕の焙煎機の場合、2回に分けて焙煎する必要がある。写真は2回分の焙煎豆を混ぜてしまった後であるが、写真からも均一な色合いは見て取れるだろうか。

1ハゼのタイミングと温度、排出温度、投入カロリーなど焙煎プロファイルはほとんど一致、当然ながら焙煎指数は完全一致といってよいレベルである。

<1回目の焙煎プロファイル>
プロファイル1(天空の森)

<2回目の焙煎プロファイル>
プロファイル2(天空の森)

<1回目、2回目を重ね合わせたもの>
プロファイルの再現(天空の森)
注) 濃い線が2回目のグラフ、後ろに薄い線で示されているのが1回目のグラフ

焙煎ロガーの威力は如何なものであろうか。高価な本格的な焙煎機では当たり前のことも、小さな焙煎機、焙煎道具では容易ではない。しかし焙煎は思いどおりにコントロール出来て、同じプロファイルが再現できなければプロとは言えない。

そして、たとえ「おうち焙煎」であっても、思い通りにコントロール出来るならば、焙煎を毎日やったとしてもマンネリ化せず、成長感もあってずっと楽しく続けられると思う次第である。この楽しさを広く皆に伝えていきたいと切に願う今日この頃である。

UPERFECT社7インチタッチモニターへのラズパイ組み込み手順

いつも僕がテストに使っているArtisanキットにはラズパイを使っている。

ラズパイ4にはHDMI(micro)端子が2つあり外部モニターを用意すればいいが、煎り上手との組み合わせを考えて、小型でかつ、Artisanの画面がなんとかタッチスクリーンで操作できるものを探したところ、EVICIVというブランドで売っているこのモデルがヒットした。解像度は1024*600であり画角的に多少横長となるが取り合えず使える。唯一の難点は、2つ目のHDMI端子が隠れて、Linux OSでは外部モニターが使えないことくらいで、質感も含めて不満はない。価格はアマゾンなどで11000-16000円くらいと頻繁に変動しており、安いときを狙って購入したい。

ラズパイ組み込み01

さて、別に用意したラズパイを組み込むわけであるが、All-in-oneを謳うだけあって、電源やケーブル、FANなども揃っており綺麗に組み込める。ただしヒートシンクは含まれないので、夏季も安定して使うには別途用意する必要がある。また、説明書はかなり不親切で、普通に作ると間違えやすい箇所が何か所かあるため、この説明書を用意した。本体マニュアルを補う形で参考にして頂きたい。

 

本体マニュアル冒頭の共通説明に目を通したら、ラズパイ4の場合はP16から開始する。最初のステップはタッチスクリーン用の接続ケーブルである。方法は2つあり、方法2USB端子に挿すだけで簡単だが、USB端子を1つ消費するので方法1を採用したい。この場合、半田付けが必要となる。マニュアルの写真には半田付け部分に赤丸が付いているが、その位置がずれており、写真に従うと間違った場所に半田付けしてしまうことになる。正しくはTP番号をみて行う。

ラズパイ組み込み02

 <正しい接続位置>        <間違った接続位置>

 
ラズパイ組み込み03
<端子が小さく、半田付けは少々繊細な作業になるので、先の細い半田ごてを用意したい>

無事半田付けが終わったら、ラズパイを本体に固定する前にRaspbian Linuxを入れたMicro SDカードを挿しておくことを勧める。固定してからだと少々挿しにくい。

次のステップはマニュアルにないが、本体基板の4つの取付穴に付いているオレンジ色のビニールを取り除くことである。これを忘れるとせっかく苦労してラズパイ基板を接続しても、ネジ止め出来ない憂き目にあう。
ラズパイ組み込み04 



次は、向きを確認してラズパイにHDMI-DTypeCと書かれたコネクタ基板を挿す。さらにラズパイ用のパネルを嵌めた状態で、ケース内の本体基板挿入するわけだが、これが意外と難しい。特にコネクタ基板の端子が少し反っていたりすると難易度がさらに上がり、半挿し状態になりやすい。コツはパネルの穴にラズパイのUSB端子などを合わせたら、まず2つのコネクタ基板を挿すことだけに集中することである。この際、ラズパイが多少斜めになっても気にしないこと。コネクタ基板が確実に挿さったのを確認してから、ラズパイ基板の取付穴を本体穴に合わせてネジ止めするとよい。

ラズパイ組み込み07

ラズパイ組み込み05
<上記は失敗ケース。画面が出なかった。よく見るとコネクタが微妙に斜めに挿さっている>

さてここまで出来たら本体の蓋をして、6か所のネジ止めをする前に電源を入れてみよう。SSDからの起動なので数秒でLinuxの起動画面が表示されるはずである。もし出なければ、コネクタが半挿しの可能性が高い。また画面は出ても、タッチパネルが動作しないようであれば、半田付け不良やショートが考えられるので、穴のあくほどじっと見て原因を見つけたい。単純にタッチスクリーン用コネクタが抜けていただけであれば直すのは簡単である。全部OKとなれば、いよいよArtisanを走らせてみる。クリーンインストールの場合は、Networkを繋げて、LinuxFull Updateを行ってから、ArtisanのサイトからLinux版をダウンロードしてインストールする。熱電対の接続にはPhidget用のドライバーもインストールする必要があるが、その辺の情報はまた別の機会にまとめたい。ちなみにRaspbian OSのアップデート手順は以下のとおり。

# sudo apt update

# sudo apt full-upgrade -y

# sudo apt autoremove –y

# sudo apt clean

# sudo reboot

ラズパイ組み込み06

難敵マンデリンの煎り上手での焙煎

マンデリンの焙煎は難しいとか、マンデリンが上手く焙煎出来るようになれば一人前、とかいう話はよく聞くが、僕のメイン機、Cormorantで焙煎する限りはさほど難しいと感じたことはない。そこで本日はそのマンデリン(Ache Deep Greenのニュークロップ)を、煎り上手でフルシティまで焙煎するテストを行った。
煎り上手予熱中(マンデリン焙煎)
<いつものようにログハウスのテラスに道具一式を設置>

やってみて気が付いたことは、煎り上手のような焙煎器具だからか、マンデリンは一ハゼの音があまりしない。どこが開始か分からないくらい、パチ、パチ、とまばらに始まり、すぐに止まってしまう。豆の量も少ないため、1ハゼに伴う気化熱によるRoRのドロップも観測しにくい。ただその後しばらくして発熱反応に切り替わると、急に温上が激しくなるため火から少し遠ざける必要が出てくるが、この加減が大変難しい。 

1回目の焙煎では前半は良い感じで火が入って、Scott Rao氏推奨のNatural Roastっぽく進行したが、1ハゼ開始後に火から遠ざけ過ぎて、一度温度が下がり始めてしまい、そこからはどんなに火に近づけても、うまく波に乗れず、そのまま失速。15分以上引っ張っても2ハゼが起こせず、ごらんのとおりの失敗焙煎となった。投入カロリーは404C*min でも色合いはせいぜいハイロースト程度。

2回めは、絶対にRoRを負の値にしないぞ、と臨んで、前半は周りからの風が少し強くなったりして、少々乱れ気味であったが、とにもかくにも上手く温度上昇していき、順調に2ハゼに持ち込んで、綺麗なフルシティの焙煎に仕上がった。投入カロリーも 331 C*min と、メイン機で焙煎するときとだいたい同等な数値であることから、恐らく味わいも同じになっていると思われる。

マンデリン焙煎by煎り上手

マンデリン焙煎豆比較

確かに他の生豆に比べて、マンデリン豆の焙煎は少し難しいように感じた。まだまだ修行が足りないのか。

【2022/1/4 追記】
本日、両方のマンデリンを試飲してみたところ、成功焙煎の方はまさにマンデリン・アチェの薫り高いフレーバーが出ており、ほぼベストの焙煎であったのに対して、失敗焙煎とした1回目のものもさほど悪くない。フレーバーこそ劣るものの甘みがあり飲みやすいマイルドな味であった。要するに "Bake"と呼ばれるだらだら焙煎をしたことで、Bake焙煎特有のまったりとした味わいが出た、ということらしい。素材が良い豆なので、結局どう焼いても美味しいのであった。

プレミックス焙煎

僕は通常、プレミックス焙煎はやらないが、今日は元旦、ちょっとご近所にお年賀でもしようかと思い、4種類の生豆をプレミックス焙煎してみた。内容はエチオピア・ゲイシャ・ナチュラル145g、ブラジル・カショエイラ200g、パプアニューギニア・タイガッドSP 200g、マンデリン・アチェ・ディープグリーン50gの4つで、フルーティな酸味と苦み・コクを組み合わせて、中庸のブラジル豆をサンドイッチした形で、ダイナミックレンジの広い味わいを目指してハイローストに仕上げてみた。それぞれの豆を単独で焼くと焙煎プロファイルやハゼのタイミングは結構異なるが、プレミックスすると不思議と足並みがそろう。一ハゼ開始以降の発熱反応にはいると豆同士が押しくらまんじゅうのように熱しあうことで、加熱が遅れていた豆も揃ってしまうからだろうか。

種類のプレミックス
写真では分かりづらいが、生豆の状態では色合いも大きさもバラつきが大きい。通常はエチオピア・ナチュラルが一番火が入りやすく、ブラジルが遅い。マンデリンも独特なプロファイルを示す。水洗式のパプアニューギニアはニュートラルな感じのプロファイルを描く。

プレミックス焙煎豆

これが焙煎した豆。まるで単一の豆のように色合いも豆面も揃っている。
明日の試飲が楽しみである。


ちなみにプロファイルはこんな感じ。

premix_roast

世界に一つしかない組み合わせ、味を追求して、プレミックスを極めるのも面白いかもしれない。

おうち焙煎 with 科学的アプローチ

今年もついに大晦日。もう新年までカウントダウンできそうな時間である。さて、ここのところKAZUHICOFFEEではある実験を繰り返してきた。それはミニマムな焙煎道具、煎り上手に焙煎ロガーを取り付けてどこまで出来るか、というものである。
煎り上手たち

最初はただ熱電対デジタル温度計を仕込んでみた。これだけでも俄然面白い。一回70gの焙煎、というのを逆手にとって、豆を気にせず色々と冒険が出来るのが強みである。そもそもこの焙煎器具は20年間売れ続けているロングセラーだけあって実によく出来ていて、まぁ適当にやってもそれなりに失敗なく焼けるのである。
煎り上手+温度計実験

しかし、焙煎ロガーを付けるとどうなるか。リアルタイムで温上スピードであるRORが読み取れるだけでなく、このペースなら何分後にハゼかなど、細かく表示されるので、まさに思いどおりの焙煎が出来るのである。ちょっと気を付けてやれば、プロの焙煎師が本格的な焙煎機で焼いた珈琲豆となんらそん色のないレベルのものも作れる。再現性を追求することも出来る。
煎り上手室外実験中
煎り上手室内実験
<寒い日はログハウス内でも焙煎テスト>

来年はこれを使って、「お家で焙煎教室~科学的アプローチ」(仮題)というのをやってみたいと目論んでいる。一クラス分(40人程度)の焙煎道具を用意して生豆と共に配布し、マニュアルと課題を提供する。だんだんと難易度が増すと同時に高級な豆を使う形で、6~8回の課題をクリアすることで、初心者でもあっと言う間に素晴らしい焙煎が出来るようになる、というものである。コース終了後は手元に焙煎道具が残るだけでなく、美味しい珈琲豆も手に入る。これをクラウドファンディングで出来ないか、というのが今の計画である。さぁ、来年早々からまた忙しくなるぞ~

煎り上手Artisan付き2号機
本日、Artisan接続用の2号機を制作。温度チェックも合格  (^_^)

歴代煎り上手

これは先日、煎り上手の発売元である発明工房さんを訪問した際に撮らせて頂いた、開発途中の煎り上手。2002年の発売前の1年くらい集中的に様々な試作品を作ったとのこと。無骨なものや、銅製のものなど、なかなか興味深い。

追伸:
今年はここまでですが、最後にいつも僕の風変わりなブログを読んでくれている皆さまに感謝致します。たまにコメントを頂いたり、なかには北海道とか島根といった遠方からログハウスまで来てくれた方までいて、とても励みになっています。来年はさらに深く、しかしどなたにも分かりやすい内容をアップしていけるように頑張ります。 では皆さま、良いお年を!

  KAZUHICOFFEE 2021年大晦日 すっかり快適なオフィスになったログハウスにて
ログハウス冬仕立て


ペーパードリップ抽出についての考察

デイリーな珈琲の抽出方法としては、後片付けの簡便さから最終的に大半の人が、ペーパードリップに落ち着くだろう。但し、ペーパードリップといっても、ドリッパーの形状、ペーパーの種類、そして抽出法には様々な手法がある。しかし結局、抽出の目標は以下の2点に集約される。

①焙煎豆が含む成分をバランスよく取り出すこと
②安定して同じ味が再現できること

教科書的には大きく透過法(濾過法)と浸漬法に分けられるが、完全な浸漬法はあったとしても、完全な透過法というのは物理的に困難である。敢えて言えば点滴抽出がこれに相当するが、湯溜まりが一切できないように、最初から最後まで点滴だけで一杯分を抽出するためには大変な根気がいる。この場合、たいていは濃く少量を淹れてデミタスで飲むか、それにお湯を足して濃度調整するか、となる。ちなみに、後者の薄める方法は日本ハンドドリップ協会が推奨しており、全体の1/3量をドリップ抽出した後に、2/3はお湯で薄めなさい、と勧めている。この手法では特に深煎りでは明確にスッキリした味わいになるが、抽出率が下がるため同じ粉の量では薄く感じることが多い。

それはさておき、少なくともペーパードリップ=透過法というのは正しくなく、ペーパードリップを使えば、浸漬法と透過法の比率を色々変えれるよ、というのが事実だろう。
例えば極端に浸漬法に振ったのが、クレバーやHARIOのスイッチであり、方式的には全くの浸漬法であるが、フレンチプレスのような後片付けの面倒くささを解決している。

さて、今回の主題は抽出メソッドである。自分がやってきた以下の5つのメソッドについて自分なりに考察してみたい。なお、実際のコーヒーの味わいは、メッシュ(挽目)や湯温、濃度、そして水の品質(PH)で大きく変わり、むしろこちらの方が影響は大きいと思うが、キリがないので今回は割愛している。

(1)伝統的な抽出方法
10年くらい前までは、ほとんどの本に押しなべて書かれていた方法である。要約するとこんな感じか。

- 平らにセットした珈琲粉に全体を湿らせる程度にお湯を注いで20-30秒蒸らしてドームを作る
- 最初は小さな「の」の字を描きながら、なるべく細くお湯を注いで抽出していく
- 粉を暴れさせたり珈琲粉の層を崩さないように、かつ膨らんだ粉の状態を保ちながら、だんだんと「の」の字を大きく注いでいき、目標量に達したらお湯を残したまま素早くドリッパーを外し、上に浮いているアクを入れないようにする。粉の状態がよいと、2段、3段ロケットのように、お湯を注ぐ度により新たなコーヒードームがより高く盛り上がるのが実に気持ち良い。
伝統的な抽出方法

(2)ALLPRESSのやり方
エスプレッソで有名なのALLPRESSである。ここの手法は有名ではないかもしれないが、展示会で試飲した珈琲が美味しく、頂いたカードに書かれていた方法が明快だったため、取り入れてみた。
- 挽いた豆の倍量のお湯を注いで30秒蒸らす。
- 残りのお湯を中心に向かって注ぎ、蒸らす工程を含め、2分45秒ですべてのお湯を注ぎ終える

うーむ、実に簡潔でよい。覚えやすい。(^^;
ALLPRESSメソッド

https://hidenori-izaki.com/

NHKの逆転人生で一躍有名になった井崎氏の手法は、従来の方法から見ると完全に逆を行くもので、以下の特徴がある。

- 蒸らしに使うお湯はタップリめ(全体の20%)
- 途中でドリッパーをグルグル回す
- コーヒー粉の層は崩し続ける。ペーパーにもお湯をしっかりかける!

なお、類似方法として、ドリッパーをグルグル回す代わりに、抽出中の粉をスプーンなどで掻き混ぜる方法もあるが、この方法は最初、確かオーストラリアの抽出世界チャンピオンがやったんだったかな。

粕谷メソッド

これは最近僕がしばしば使う方法である。狙った味を安定して出す、という意味では秀逸な方法である。デメリットとしては、抽出時間が長い分、過抽出気味になり、くどい味になったり、少しえぐみが出てしまうことがあることであるが、最良の状態の珈琲粉であれば、余すところなく成分を取り出す方法として素晴らしいと思う。ただし3分半は少し長い。

(5)堀口俊英氏の20ml-10秒リズム抽出法
堀口リズムメソッド

大御所の堀口氏の最新著作「THE STUDY OF COFFEE」に書かれている手法で、240mlを抽出するなら、毎回20mlのお湯を注いでいる時間も含めてずっと10秒間隔で注ぎ続けて、トータル15回、300mlを注ぐと、一杯分240mlの珈琲が出来上がる、というもので、ぶれる余地もなく機械的に抽出できるので初心者にも大変分かりやすい。

さて、この5つのメソッドを比較して共通部分と矛盾する部分を取り出して、特に特徴的な部分を黄色く色づけしてみた。うーむ、うーむ。なんだか何が正しいのか分からなくなる (^^;

抽出方法比較
機械的な手法で安定した抽出を目指す

これをもってしても分かるように、ペーパードリップだけ取っても、抽出方法に絶対はないことが分かる。結局、色んな手法を試しながら、一番心地よく継続できる自分のスタイルを見つけていくしかないのだろう。ちなみに僕は毎日5,6杯はペーパードリップするが、どの方式でもなく、焙煎度、粉の状態などから無意識に各手法を組み合わせたり、微調整しているように思う。

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閑話休題

珈琲焙煎を理解する際に、焙煎機の種類や特徴から入ると混乱するが、豆温度、RoR、最終的な排出温度と焙煎度で味は決まる、と共通的に考えると分かりやすい、というのが僕の持論であるが、抽出においても、お湯の温度、お湯と粉の接触時間、の2点で捉えたほうが結局は分かりやすい。これはJ.C.Q.A.コーヒーインストラクターの考え方である。

・コーヒー成分は水に溶け出しやすいもの、溶け出さしにくいものが複雑に含まれている
・各成分は、湯温により溶けやすさが異なる

この考え方であれば、粒度が細かいとどうなるか、湯温が高いとどうなるか、ゆっくり注ぐとどうなるか、など抽出メソッドに関係なく、なぜそうなるかが理解しやすい。






優秀な焙煎器具「煎り上手」の進化系

珈琲焙煎はちょっとした化学実験である。実験の結果は、焙煎豆という見える形で出てきて、最終的にはそれを粉にしてコーヒー液に抽出して味わうことで、その実験がうまくいったかどうか判断するわけであるが、話はそう簡単ではない。というのも、コーヒーの味の感じ方や好みは個人差がとても大きいからである。特に苦み成分を複雑に多数含むコーヒーの場合、旦部幸博氏によると、ある種の苦みを強く感じる人もいれば、全く感じない人もいるということなので、もう好みとかいうレベルではなく、味わっているモノ自体が異なるといってもよいかもしれない。

それはさておき、珈琲焙煎を自分で操れるようになると自分好みの味を作ることは出来る。自分好みの珈琲豆を、あちこち出掛けたり、ネット上で探し回るのは楽しいが、一つの珈琲生豆から驚くほど多彩な味を作れることを知ると、だんだんと闇雲な飲み歩きはしなくなる。自分がそうであった。

ということで、本題の家庭焙煎である。家庭焙煎はもうちょっとしたブームであり、例えば焙煎や焙煎機に関するFBグループを検索すると世界中には驚くほどたくさん存在することに気付く。一番お金を掛けない方法としては、100均などで売っている安価な手鍋やフライパンを使う方法や、小さな手網を使う方法があるが、ほとんどの人は直感の世界で焙煎しており、毎回上手くいった、いかなかった、という結果だけに一喜一憂しているのではないであろうか。 この場合、たとえ千本ノック的に焙煎しまくったとしても、毎回狙った味を出したり、前回と同じ味を再現するのは最後まで難しい、というか理論的に不可能である。 

そこで僕が考えているのは、小さな焙煎器具にも科学的アプローチを加えることで、短期間で焙煎を理解して、根拠を持った焙煎で味作りが楽しめるようにできないか、ということである。

煎り上手+温度計
<温度計付き煎り上手>

煎り上手+Artisan
<Artisanロガーが動作しているラズパイを接続した煎り上手>

Artisanグラフ+煎り上手
<煎り上手で焙煎したときのプロファイル例>

今手始めに実験しているのが、発明工房の「煎り上手」の進化版で、一つは柄の部分にデジタル温度計を差し込んだバージョンで、これだけでもかなりのことができるようになる。もうひとつは、Artisanロガーにつながるバージョンで、こちらが本命、これがあれば、文字どおり短期間で焙煎のなんたるかが学べると信じている。 

この仮称「焙煎見える化キット」付の煎り上手と、厳選した練習用、ステップアップ生豆セットを使えば、一か月後には誰でもちょっとした焙煎師になれるとしたら如何であろうか。なにしろ焙煎は、焙煎機の種類や手法で捉えると無数に方式があってどれがよいのやら難解を極めるが、焙煎プロファイルという本質で捉えると、焙煎方式、器具だけでなく、バッチ量ですらあまり考慮しなくてもよくなる。純粋に化学実験的に理解できたなら、将来本格的な焙煎機に進んだとしても、それも直ぐに理解できのではないだろうか。



嶋中氏の本「HOME COFFEE ROASTING」

この本のタイトルを見て実は少々ショックを受けた。というのも、自分は今、家庭焙煎コンサルティングを本業にしようとしており、まさにこういう本を自分でも出したいな、と考えていた矢先だったからである。

嶋中氏の家庭焙煎の本

しかも著者の名前に旦部氏の名前がある。旦部氏と言えば、珈琲マニアなら知らない人はいない有名な珈琲研究家であり、僕自身、特に氏の「コーヒーの科学」には大変お世話になっている。エビデンスに基づいた旦部氏の発言には絶対的な信頼を置いてきた。そこにさらに嶋中労氏である。以前ブログにも書いたとおり、嶋中氏の本は、まるでその人とずっと一緒に過ごしてきたのではないかと思われるほどにリアルさを感じさせるもので、講談調の文章と相まってとても楽しい。ということで大いに期待してアマゾンで早速注文してみたら翌日にはもうポストに入っていた。

さて、読んでみての感想は、正直いって少し拍子抜けであった。もっと技術書よりを期待していた。そもそも共著者に旦部氏の名前はあるが、あくまで全編が嶋中氏の文章であって、内容は珈琲焙煎家などにインタービューしたエピソード満載の珈琲物語的要素が強い。

タイトルの「HOME COFFEE ROASTING」は、昨今の自宅珈琲ブームもあり、家庭焙煎をしている人や、これから開始したい人には実にアピールする。そして表紙には旦部氏の名前である。これは一本取られた! という感じ (^^;

さて内容であるが、さすが嶋中氏の文章だけあって、とても読みやすく一気に最後まで読める。ただし、「コーヒーの鬼」などの迫真のルポぶりに比べて、少しやっつけ仕事的な内容にも見える。そもそも嶋中氏はジャーナリストであって焙煎士ではない。焙煎を実際にやっている者なら突っ込みを入れたくなるような箇所もちらほら見当たる。恐らく色々インタビューして得られた情報は自分で体験したわけではないと細かい部分で消化しきれず、本にまとめるには苦労されたと思われる。

例えば文中に以下の説明があるが実態は逆だろう。モカは小粒でも元気にハゼるし、思いがけず大きく膨らむ。一方、ブラジルは総じてハゼも大人しく、膨らみ方も穏やかで一様である。

<112ページからの抜粋>
「例えばナチュラルのモカと同じくナチュラルのブラジルを比べると、モカは線香花火みたいに弱々しくハゼるが、ブラジルは力強くハゼる」

前半の「お家焙煎の科学」の稿は、旦部氏の「コーヒーの科学」を読んだ方が分かりやすい。手網や手廻し焙煎機の使い方の説明も一人の意見を受け売りしている感じで、やや中途半端である。途中、無理やり水増ししたような内容が入って、読んでいると少々中だるみするが、流石にポイントは抑えている。例えば奇しくも先日僕がブログに書いた大坊氏風の1ハゼなし焙煎についてもなかなか分かりやすく説明している。ただしこれも大坊氏自身の本に書かれている内容と同じではある。

また本書の随所に引用される旦部氏や田口氏の発言については、旦部氏、田口氏の著作を読み漁っている者にとっては既知の内容ばかりであった。

とここまで偉そうなことばかりを書いてきたが、全体としては主だった珈琲の大家の考えや知見を巧みにキュレーションしており、しかも読みやすい文章にまとめているのは流石だと思う。僕は珈琲本を買っても内容が今一つだと直ぐに手放してしまう性分であるが、この本は僕の蔵書に加えようと思う。
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